作業療法士の人手不足は本当?今後の需要とキャリア戦略を詳しく解説

介護の仕事

空を見上げる男女の介護士

「資格を持っている人は多いみたいだけど、知り合いが勤めている施設では、作業療法士が足りないらしい」
「介護施設に転職したいけれど、どこも人手不足で忙しそう」

など、作業療法士の需要について、実際のところどうなのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

全国的な有資格者数と就業者数から見てみると、作業療法士は供給過多の状態といわれています。


画像引用:厚労省「第59回理学療法士国家試験及び第59回作業療法士国家試験の合格発表について」令和6年2月18日(日)及び2月19日(月)に実施した標記試験の合格者数等


画像引用:一般社団法人日本作業療法士協会「2020 年度 日本作業療法士協会会員統計資料」

しかし、資格は持っているものの、実際に作業療法士として働いていない人もいるため、地域や職種によっては人手不足になっているところもあるようです。

画像引用:一般社団法人日本作業療法士協会「2020 年度 日本作業療法士協会会員統計資料

この記事では、作業療法士の人手不足の実態と課題について解説し、今後の需要増加に対応するためのキャリア戦略をご紹介します。

作業療法士の人手不足の現状と今後の需要について理解し、対策をしていきましょう。

作業療法士の人手不足の実態は?地域・職場による違いと懸念事項

「人手不足」と新聞の見出し

前述したように、作業療法士の有資格者数は年々増加している一方、地域や職場によっては、需要に対して供給が不足している状況が続いています。

地域別と職場別で、どのような実態なのか、状況と要因、特徴を確認したのち、人手不足による懸念事項について見ていきましょう。

地域別の人手不足の状況とその要因

表6 都道府県別会員数
都道府県名会員数2020 国勢調査人口会員勤務施設数
(2020.10.1)
男性女性合計(単位10万人)
北海道1,4951,6163,11152.3757
青森県31251682812.4172
岩手県30947278112.1205
宮城県3837581,14123.0276
秋田県(★)2094046139.6149
山形県31062593510.7215
福島県3856811,06618.3272
茨城県4487951,24328.7302
栃木県36459696019.3205
群馬県34365399619.4216
埼玉県(☆)8071,3662,17373.5478
千葉県6931,2991,99262.9454
東京都(☆)1,3642,4933,857140.61,004
神奈川県(☆)9801,8472,82792.4695
新潟県3717781,14922.0320
富山県17850167910.4178
石川県26759786411.3204
福井県(★)1883625507.7137
山梨県(★)3233706938.1122
長野県5171,0721,58920.5290
岐阜県29649078619.8195
静岡県7101,1701,88036.4400
愛知県(☆)9341,7652,69975.5589
三重県27348175417.7182
滋賀県23436459814.1134
京都府4537731,22625.8280
大阪府(☆)1,3261,9423,26888.4795
兵庫県1,0351,7762,81154.7608
奈良県31541773213.3154
和歌山県(★)2662645309.2126
鳥取県(★)2333595925.5127
島根県(★)2113455566.7128
岡山県5329041,43618.9308
広島県6251,1251,75028.0421
山口県4906341,12413.4237
徳島県(★)3203616817.2175
香川県(★)2914307219.5171
愛媛県4975981,09513.4280
高知県(★)3354898246.9167
福岡県1,5202,1403,66051.4767
佐賀県(★)2903656558.1134
長崎県4826571,13913.1264
熊本県6559751,63017.4336
大分県40656096611.2242
宮崎県28640869410.7194
鹿児島県6637091,37215.9339
沖縄県45649294814.7183
海外189
非有効データ99216315
対象会員・施設数24,48039,01863,4981262.314,587

注1:総務省調査データを、万単位未満を四捨五入しているため、合計の数字と内訳の計は必ずしも一致しない。
注2:2020 年度の人口は2020 年10 月1 日現在の国勢調査人口速報より抜粋したもの。

参考:一般社団法人日本作業療法士協会「2020 年度 日本作業療法士協会会員統計資料」の表をもとに作成(一部加工)

(☆)各都道府県の人口10万人あたりの作業療法士数70万人以上
(★)各都道府県の人口10万人あたりの作業療法士数10万人以下

一般社団法人日本作業療法士協会の統計を見ると、各都道府県の人口10万人あたりの作業療法士数が示されており、この数値が低いほど、需要に対して供給が不足していると考えられます。

全国平均が26.86のところ、数値が70以上あるのは東京や大阪など、都市部に集中。一方、中部や中国地方では、数値が10以下の都道府県が多く、都市部と比べて地方での充足率が低い傾向にあることがわかります。

地域差が生じる要因としては、都市部に比べて地方では医療・福祉施設の数が少なく、働く場所の選択肢が限られること。また、地方では、都市部に比べて待遇やキャリアパスが魅力的ではない場合が多く、人材流出が起きている、などが考えられます。

職場別の人手不足の特徴

画像引用:一般社団法人日本作業療法士協会「2020 年度 日本作業療法士協会会員統計資料」 図 4開設者別会員数

一般社団法人日本作業療法士協会の統計資料によると、協会に属している作業療法士の多くが病院に勤務しており、介護などで働いている人数の割合が少ないというデータが出ています。

例えば、介護施設では、入所者の重度化や認知症ケアへのニーズの高まりから、作業療法士の役割がますます重要になっていますが、現状では人手が足りていない状況です。

人手不足による質の低下や待機時間増加の懸念

作業療法士の人手不足によって、サービスの質の低下や利用者の待機時間増加など、さまざまな問題を引き起こす可能性が懸念されます。

例えば、人手不足が続くと、一人の作業療法士が担当する利用者数が増え、一人ひとりに十分な時間をかけた質の高い支援が提供しづらくなります。

また、新規利用者の受け入れが制限され、サービスを必要としている人が待機を余儀なくされるケースも出てくるでしょう。
待機期間が長引くほど、高齢者の心身の状態が悪化するリスクが高まったり、家族など介護者の身体的・精神的な負担の増加につながったりします。

さらに、人手不足にともなう長時間労働や過酷な勤務環境は、作業療法士の心身の負担を増大させ、離職につながるリスクもあります。

職場を去るベテランの作業療法士が増えれば、サービスの質はさらに低下してしまう恐れがあるでしょう。

作業療法士の今後の需要予測

話しかける女性介護士

ここからは、作業療法士の今後の需要予測について、以下の2つの観点から見ていきます。

  • 高齢化の加速による医療・介護ニーズの増加
  • 離職による人手不足の解消ニーズの増加

参考:日本作業療法士協会「こんなところで!作業療法士

高齢化の加速による医療・介護ニーズの増加

現状投影計画ベース
2018年度2025年度2040年度2018年度2025年度2040年度
患者数・利用者数等 (万人)医療入院132144155132132140
外来783790748783794753
介護施設104129171104121162
居住系465675465776
在宅353417497353427509
合計1,4181,5361,6461,4671,5311,640

参考:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省「2040年を見据えた社会保障の将来見通し (議論の素材)」をもとに表を作成

日本の高齢化はますます進んでおり、2040年代には高齢者の数が最も多くなると予測されています。それにともない、介護やリハビリを必要とする高齢者の数も大幅に増えるでしょう。

厚生労働省の資料によると、2040年には約1,640万人の医療・介護サービス利用者数が見込まれています。

画像引用:厚生労働省「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

特に、認知症の高齢者や、介護が必要な高齢者に対するリハビリのニーズは高まっています。体や心の機能を維持・向上を目指して、できるだけ自分で生活できるようサポートすることが求められているからです。

そういった傾向からも、病院や介護施設だけでなく、在宅でのリハビリをおこなう作業療法士の需要も、今後ますます増えると考えられます。

離職による人手不足を解消するための求人ニーズの増加

画像引用:公益財団法人介護労働安定センター「令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について

離職による人手不足を解消するための、求人ニーズも考えられます。

令和4年度「介護労働実態調査」によると、作業療法士の仕事の悩みとしては、人手不足や賃金への不満、休暇を取りにくいなどが上位に。また、現在の施設での勤務年数平均として、4~5年というデータもあります。

画像引用:一般社団法人日本作業療法士協会制度対策部 障害保健福祉対策委員会「障害福祉領域における作業療法(士)の実態調査 結果報告

作業療法士として長く働き続ける人が少ない傾向があるため、離職による人手不足を解消するための需要が今後も見込まれるでしょう。

人手不足に対応するための課題と解決策

上司と男性介護士の打合せ

作業療法士の人手不足に対応するためには、人材育成、労働条件の改善、他職種との連携強化の3つの課題を解決していく必要があります。

ここでは、作業療法士自身が取り組める解決策について見ていきましょう。

人材育成に積極的に関わる

需要増加に対応するには、質の高い作業療法士を十分に育成することが必要です。そのために作業療法士ができることとしては、後進の育成に関わっていくことです。

自身のスキルアップに努め、専門性を高めるとともに、施設が実習生を受け入れた際は、積極的に協力していきましょう。

実習指導者として学生の質問にも丁寧に答える、経験談を踏まえて具体的に教えるなど、自分の知識や経験をしっかりと伝えていくことで、作業療法士の育成に貢献できます。

労働条件の改善や業務効率化を提案する

作業療法士の離職率は高止まりしており、引き続き労働環境の改善が求められています。

労働時間や休暇制度など、働き方に関する意見を積極的に上司や経営者に伝えていくことが必要です。

また、業務の効率化やサポート体制の充実について具体的な提案をしたり、職場内で話し合って業務負担の軽減について取り組んでいったりするなど、できるところから取り組んでいきましょう。

他職種との連携を強化する

作業療法士は、医師や看護師、理学療法士など、他の医療・福祉職種と連携して業務を行う必要があります。

例えば、チーム会議では、他の職種の意見を積極的に聞き、自分の意見を発言することで、相互理解を深めましょう。

また、日頃から、介護職や看護師、ソーシャルワーカーなどの多職種との情報交換を心がけ、信頼関係を築いていくことで、連携を取りやすくなります。利用者への支援の質が向上し、業務の効率化も図れるでしょう。

作業療法士のキャリア戦略

デスクワークをする男女の介護士

作業療法士として自分のキャリアをどのように築いていくか、今後を見据えながら戦略を考えることが重要です。

ここでは、作業療法士のキャリア戦略について考えていきましょう。

スキルアップを目指す

人手不足により、ひとりの作業療法士が担当する利用者数が増えても、適切で質の高いサービスを安定して提供するためには、常にスキルアップをしていく必要があります。

また、スキルアップを続けることで、より求められる人材になり、キャリアアップや雇用にもつながります。

最新の医療・福祉に関する知識やスキルを得るためにも、研修やセミナーへ積極的に参加しましょう。

作業療法士の仕事に役立つ、関連領域の資格を取得するのも有効です。
例えば、認定心理士、福祉住環境コーディネーター、介護福祉士、言語聴覚士、公認心理師なども役立つでしょう。

ニーズの高い専門分野へシフトする

人手不足が顕著な分野や、今後需要の増加が見込まれる領域に目を向けてシフトするのもひとつの方法です。

例えば、以下の分野が挙げられます。

高齢者分野

高齢化社会の進展により、高齢者向けの医療・介護施設での作業療法士の需要は今後も高まっていくことが予想されます。

予防医療・リハビリテーション分野

健康寿命が伸び、QOL向上の重要性が認識されるなか、予防医療やリハビリテーションの分野での作業療法士の役割も広がっています。

自分の適性や興味・関心を踏まえつつ、ニーズの高い分野の専門性を深めることで、キャリアの選択肢が広がり、やりがいのある仕事に出会える可能性が高まります。

働きやすい職場を選択する道も

継続して働ける職場を選ぶことも大切です。

残業の多さや休暇の取りにくさ、人間関係の問題などは、離職につながる大きな要因です。
職場の雰囲気や制度、教育体制なども確認し、自分に合った環境かどうかを見極めましょう。

また、ワークライフバランスを重視し、家庭と仕事の両立ができる職場を選ぶことも大切です。

例えば、自宅からの距離が近い、勤務時間帯が自分に合っている、スタッフ間の雰囲気のよさなど、自分にとって働きやすい職場を見つけることで、キャリアを積み上げやすくなります。

今後を見据えてキャリアを考えよう

ノートパソコンに向かう女性介護士

本記事では、作業療法士の人手不足の実態と背景、今後の需要予測、そしてキャリア戦略について解説しました。

地域や職種によって差はあるものの、作業療法士は人手不足の状況にあります。

今後、少子高齢化の進行や、予防医療・リハビリテーションの重要性が増すことにより、作業療法士の需要が高まっていくと予想されます。

スキルアップや、ニーズの高い専門分野へのシフト、働きやすい職場選びなど、戦略的にキャリアを築いていくことが重要です。

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