「傾聴」とは?介護の現場で役立つ聴き方のテクニック

介護の仕事

耳に手を当てて話を聞く女性

「傾聴」をかんたんに言うと、批判や反論をせずあるがままに相手の話を聴くことです。普通の会話との大きな違いは、こちらの意見をはさまず、話を肯定しながら聴くことに徹する点。

傾聴を行うことのメリットとして、相手の心が安らいだり、心の距離が縮まって信頼関係が深まる等があげられます。高齢者介護の現場では、こうしたスキルを使うことでケアがスムーズに進んだり、チームワークが良くなることも多いため、介護に関わる方ならどなたでも知っておいて損はありません。

今回は高齢者介護でよくあるシーン別対応法も含め、傾聴の方法をお伝えしていきます。「こういうとき、よくある!」と思った方は、ぜひコミュニケーションの一環として取り入れてみてくださいね。

傾聴の基本姿勢

まず大切なのは、集中して聴く姿勢をつくること。しかしだからといって、「さあ聴くぞ!」と身構えてしまうと話し手が緊張して本当の気持ちが話せなくなることもあります。傾聴は時間に追われていないときを選び、お互いにリラックスできる環境で、ゆったりと構えて行いましょう。

話が長引いて途中で切り上げなくてはならない場合には、「今日は用事があって行かなくてはなりませんが、この続きを○○のときに聴かせてくださいね」と具体的に約束しておくとよいでしょう。

もうひとつ重要なのは、話を聴くときの態度や仕草です。当然、腕組みや貧乏揺すりはNG。温かいまなざしを相手に向けながら、少し前のめりで聴くくらいがいいですね。全身から「あなたの話に興味がありますよ」というメッセージが伝わり、話しやすい雰囲気をつくってくれます。

傾聴を行うときの注意点

口元でバツ印をする若い女性

傾聴を行う際は、「話をさえぎらない」ことに気を付けます。相手が間違っていると感じると口をはさみたくなりますが、ぐっとガマンを。かわりに「ええ」「そうなんですね」「なるほど」など、肯定的なあいづちを入れていきましょう。

たとえば「(高齢者)こんなことがあって辛かったの」「(自分)それは辛かったですね」などのように、相手が使った言葉を繰り返して話を深めていくのも良いですね。

話し手が誰かを責めているときは、「反論しない」ことも大切です。ただし自分まで一緒になって非難することのないように。自分の意見はひとまずおいて、相手が否定的な気持ちを持っていることを事実として受け止めましょう。聴くことに徹して気持ちを受け止めているうちに、相手の心は満たされていき、あなたに対する信頼が生まれてくるはずです。

話し手の話が矛盾だらけだったり堂々巡りだったりすると、ついイライラして「整理して話して!」と言いたくなることもありますね。しかし傾聴の目的は情報を集めることではないので、話が整理されていなくても気にしないで。できるだけ理解するように努めつつおおらかに受け止め、相手の心が満たされた感触があればよしと考えましょう。

もし話の途中で賞賛に値するような話が出てきたら、惜しみなく褒めることも大切です。「それはすごいですね」「頭が下がります」「感動しました」など、素直な言葉で気持ちを伝えるようにしましょう。

傾聴のメリット

相手の話に耳を傾けることは、その人の考えを肯定し、存在価値を認めること。このように承認欲求を満たしてくれた相手に、人は好意を感じて無意識に報いようとするものです。つまり傾聴を行うことで、ただ聴いているだけなのに相手から好かれ、信頼されるようになるのです。

信頼関係ができると、利用者様やそのご家族から、「この人なら安心して任せられる」と思ってもらえます。また一緒に働く介護職員や異職種のスタッフから「この人なら信頼できる」と思ってもらえます。

「あの人は嫌」「信用できない」と思われていると、何をするにも評価されなかったり任せてもらえなかったりと、とにかくやりにくいはず。信頼関係があれば介護が驚くほどスムーズになり、楽しめるようにもなるでしょう。ケアの質を高めたい人や、職場の人間関係に悩んでいる人に、ぜひ取り入れてみてほしいテクニックです。

こんなときどうする?ケース別対応法

両手で耳を押さえて辛そうな女性

相手の状態によっては傾聴が難しかったり、対応に困るケースもあります。高齢者介護の現場でよくある、難しいケースを中心に対応法のポイントをご紹介していきましょう。

同じ話を繰り返す高齢者への対応

何度も同じ話を繰り返されると、ついイライラして「その話はもう聴きましたよ」とか「それで結局○○になるんですよね」と先回りしたくなります。しかし高齢者が同じ話をするのは、「自分を語ることで誰かに認めてもらいたい」という思いの裏返し。

何度も聞いたことのある話であっても真剣に耳を傾けることで、高齢者は承認欲求が満たされ、自分の人生が価値あるものだったと確かめることができます。何度も繰り返している話に込められた思いを想像しながら、おおらかに受け止めるようにしましょう。

痛みを訴える高齢者への対応

原因不明の痛みを繰り返し訴える高齢者もいます。検査でどこにも悪いところが見当たらないと、「気のせいじゃないの」「かまってほしいだけでは」と考えてしまいがち。しかしもともと痛みは主観的なものなので、たとえ心因性であっても本人が痛みを感じているなら実際に痛いのです。訴えは決してないがしろにせず、真剣に耳を傾けましょう。

依存欲求からきている痛みの場合、「それは辛いですね」「こんなふうにさするとどうですか」等、共感しながらきちんと対応していると、欲求が満たされ痛みがひいていくこともあります。ただし痛みの原因として疾病が疑われる場合は、医師の診断を受け治療につなげるようにしてください。

認知症高齢者への対応

認知症初期の高齢者は、「これから自分はどうなってしまうのだろう」という不安と焦りでいっぱいです。時間や場所が分からなくなることから混乱し、「自宅へ帰る」「ものを盗られた」などと言い出したり、大声で叫ぶなど攻撃的になることも。

そんなときも相手の話を否定しないで、まずはつらい気持ちを受け止めるようにします。相手の話をよく聴き、心のなかの焦りや悲しみに寄り添うようにしてみてください。叱ったり高圧的な態度をとっても問題行動はおさまらないどころか、嫌な感情が強く残るため悪化することもあります。

しばらく傾聴しても状況が改善しない場合は、場所を変えたり、スタッフを交代することで上手くいくこともありますので試してみてください。

ターミナル期の傾聴

死を目前にした人の気持ちは、本人にしか分かりません。誰かに気持ちを聴いてもらいたいけれど、うまく言葉にできない・・・、そんなときもあるでしょう。話を聴くときは、話をする人のペースを大切に、言葉一つひとつに関心を持ち、耳を傾けるようにします。

こちらの価値観で行う助言や励ましは、逆に心を閉ざしてしまうこともあるので安易に口にしないようにしましょう。ただ本人の語る思いをそのまま受け止め、理解しようと務めることです。疲れた様子があれば無理をさせず、続きを聴く約束をしていったん終わりにします。

聴くだけでできる心のケア

ご利用者と介護職員が笑顔で話するようす

傾聴はただ聴くだけで高齢者の心をケアできる、優れたコミュニケーションスキルです。ただ普段から忙しい介護職員が、ケアの合間に傾聴の時間をつくるのは難しいかもしれません。

とはいえ短時間の雑談でも少し傾聴のテクニックを取り入れることで、ずいぶん関係が良くなることもあります。じっくりと時間をかける傾聴には、知識のあるボランティアに来てもらって、聴くことに専念してもらうのも良いアイデアですね。

自信を失いがちな高齢者の心に自信を与え、明るくできる傾聴。苦手な利用者様の話が始まったら、「また時間がとられる」と考えるのではなく、「心のケアの時間」と考えてみませんか?同じことでも見方を変えると、少しストレスも軽くなるはず。話を聴くことを前向きにとらえて、相手の心も自分の心も明るくしていきましょう。

 

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