介護施設で高まる言語聴覚士のニーズ。役割と仕事内容、向いている人

資格・スキル

ソファに座った高齢女性に話しかける男性介護士「言葉」「聞こえ」「食べること」に障がいを持った人を支援するリハビリテーションの専門家、それが「言語聴覚士」。「Speech Therapist」の頭文字から「ST」と略されることもよくあります。

歴史が浅いこともあって社会的な知名度は低めではありますが、専門性が高いうえに守備範囲も広く、やりがいのある仕事です。

言語聴覚士の活躍の場は現在のところ医療機関が多いですが、高齢化が進む今、とくにニーズが高まっているのが介護施設。今回は介護施設で働く言語聴覚士にスポットを当て、仕事内容ややりがい、適性についてご紹介していきます。

介護における言語聴覚士の活躍の場

男女の介護士がインターホンで訪問を伝えている介護施設は種類ごとにそれぞれ目的が違うため、どの介護施設を選ぶかによって言語聴覚士の働き方にも若干違いが生じます。とくにリハビリ専門職として働く場合と、介護職を兼任する場合とで、働き方が異なることをチェックしておきましょう。

介護老人保健施設(老健)

介護を必要とする高齢者が、再び自宅に帰って生活することを目指し、介護やリハビリ等を受けながら生活する施設。リハビリのための人員や設備、医療体制が充実しています。

介護職や看護職、栄養士、ほかのリハビリ専門職である理学療法士や作業療法士達と連携しながら、その人の症状に合わせてリハビリを行い、在宅復帰を目指します。

利用者様が退所されるまでの期間は基本3ヵ月~6ヵ月。短期間で退院となる病院とは違い、比較的じっくりと利用者様と向き合うことができます。

訪問リハビリテーション事業所

在宅で生活する高齢者の自宅を訪問し、その人に合わせたリハビリテーションを提供します。病院などの医療機関や、老健、介護医療院などが実施主体となっていることが多いでしょう。

この施設で特徴的なことは、移動が多いということ。また退院という節目がないので、一人ひとりの利用者様との付き合いは長くなる傾向で、お別れは亡くなったときということも。

介護医療院

医療的ケアと介護の両方が必要な高齢者が、長期にわたって生活するための施設で、終の住処としての役割も持っています。リハビリ専門職は適当数配置すればよいことになっているので、リハビリの充実度は施設によってばらつきがあります。一人ひとりの利用者様と長くじっくりと関係を築いていくことができます。

特別養護老人ホーム(特養)、デイサービス

特養は日常生活で介護が必要な高齢者が、介護を受けながら生活するための施設。デイサービスは在宅で暮らす要介護高齢者が、日中に通いで食事や入浴、レクリエーションなどの介護サービスを受けられる施設です。

リハビリ専門スタッフの配置基準はありませんが、言語聴覚士は機能訓練指導員として、集団体操などの機能訓練やレクリエーション等を担当することができます。この場合はリハビリだけに専念することは少なく、必要に応じて食事介助や排泄介助などの介護業務を兼任するケースが多いでしょう。

詳しい仕事内容は?

高齢女性の食事介助をする女性介護士たとえば聞こえが悪くなっている人であれば補聴器を提案したり、言葉がうまく発音できない人は症状に合わせた表現を練習するなど、障がいがあってもスムーズに生活できることを目標に、その人に合わせたリハビリを行っていきます。

摂食・嚥下障がいの訓練では、実際に食べ物を食べながらテクニックを身につけることも。食べるときの正しい姿勢を覚えてもらったり、息をこらえて飲み込む、汁物と固形物を交互に食べるなど、さまざまな工夫をします。さらに栄養士と相談して食事の形態を変えたり、介護職員に安全な食事介助方法を伝えたりします。

リハビリを実践したら、それを記録に残すことも大切な仕事。リハビリの内容と時間、どんな変化が起きたかを書き記し、医師や看護師、介護職員と共有します。その他ミーティングなどで他のスタッフと情報共有、カンファレンスに出席、ケアマネジャーに連絡を行うなどの仕事があります。

介護施設での言語聴覚士のやりがい

車椅子の高齢女性の手を握り微笑む女性介護士介護現場での言語聴覚士の支援対象は、多くの場合「病気の後遺症や老化により障がいが生じた人」。生まれつき障がいを持っていた人とは異なり、急に会話や食事ができなくなってしまった人は、なかなか現実を受け入れられず、リハビリにも前向きに取り組めないこともあります。

また高齢だとリハビリの効果が出にくかったり、回復が難しかったりすることも。障がいを受け入れ、そのなかでどうやって周囲の人に気持ちを伝えるか、どうやって食べることを楽しめるようにするかといった試行錯誤をしていくことになります。

「なぜ自分が」「こんなはずじゃない」――そんな苦悩にプロとして寄り添い、有効なアドバイスとリハビリを提供するのが介護現場での言語聴覚士の役割。不利な条件のなかで知恵を絞り、仲間と協力して打開策を見つけていくのが醍醐味です。

一人ひとりの利用者様との付き合いは長くなり、なかには亡くなってお別れすることもあります。もちろんとても悲しいことですが、だからこそ利用者様と心が通じ合ったとき、感謝の言葉をもらえたとき、人生の最期を一緒に過ごして感動を分かち合えたとき、よりいっそう喜びが大きくなります。

向いている人は?

女性介護士に手を添える高齢女性の手介護分野で活躍する言語聴覚士には、相手の心情を思いやりながらあせらず人間関係を構築していく姿勢、またすぐに結果が出なくても粘り強く取り組む姿勢が求められます。

さらに介護職や看護職、ほかのリハビリ専門職と協働する場面も多いので、自分のペースで仕事をしたい個人プレータイプより、チームで苦楽を共にしながら働きたいチームプレータイプが向いていると言えるでしょう。

《こんな言語聴覚士は介護現場に向いている》
  • 人と接することが好き
  • 人懐っこい性格
  • 思いやりがある
  • 根気強く取り組める
  • 人を喜ばせることで自分も喜びを感じる
  • チームで働くことが好き
  • 学ぶことが好き

介護分野でさらなる活躍を

先を見つめる男女の介護士日本が超高齢化社会を突き進むうえで、介護現場での言語聴覚士のニーズは今よりさらに増えていくことが予想されます。しかし今のところ、言語聴覚士の働く場所は医療機関に偏っており、介護分野や福祉分野でとくに不足しているのが現実です。

「聞く」「話す」「意味を理解する」「食べる」という、人間にとって欠かせない部分を幅広くサポートしてくれる言語聴覚士。今はまだその重要性に知名度が追いついていないかもしれません。今後知名度が上昇し、言語聴覚士の数も増えれば、きっと多くの言語聴覚士が介護分野で活躍してくれることでしょう。

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