もの忘れや徘徊などの症状が現れるアルツハイマー型認知症は、最も多い認知症の原因と言われています。現在、根本的な治療薬や治療法は開発されておらず、抗認知症薬で症状の進行を遅らせているだけにすぎないのが現状です。
2014年にアメリカの研究者デール・ブレデゼン博士が報告した「リコード法(ReCoDe法)」が、認知症の治療法として注目を集めています。認知症の症状を引き起こす原因を探り、その原因に対して食事や運動プログラムでのアプローチや、サプリメントによる栄養補給などを行う、オーダーメイド型の認知症改善プログラムについて今回はご紹介します。
アルツハイマー型認知症の原因と症状
私たちの脳にベータタンパクやタウたんぱくといった異常なたんぱく質がたまってしまうと神経細胞が減っていきます。なぜたんぱく質がたまってしまうのか、はっきりとした原因はわかっていませんが、蓄積されることで脳は委縮し、同時に記憶をつかさどる海馬も縮小してしまうのです。こうなるともの忘れなどの認知機能障害や、妄想や徘徊、暴力などのBPSD(行動・心理症状)が現れるようになります。
厚生労働省の調査によると、2012年における認知症の有病者数は462万人{※}で、決して少なくありません。さらに2012年から推計すると、2025年には65歳以上の認知症患者数が約700万人(5人に1人)に増加する見込みです。しかし、認知症の基本的な治療は症状の進行を遅らせる薬の処方のみで、根本的な治療は困難といわれてきました。認知症の発症時点では、すでに取り除けないほど大量の有害なたんぱく質が脳に蓄積されていることが多いためです。
根本的治療法が存在しない病気とされている認知症ですが、米国のデール・プレデセン博士が開始したリコード法がアルツハイマー型認知症の予防や治療法として現在注目されるようになっています。
※高齢者の健康・福祉 平成28年版高齢者白書(概要版)|内閣府
認知症の原因に合わせて行われるリコード法
デール・プレデセン博士は研究のなかで、脳に蓄積されるアミロイドβが神経障害の原因と指摘しています。そして、アミロイドβは脳の神経細胞の防御反応として生じる物質であるため、その防御反応を引き起こす原因を減らすことによって認知症を改善できるのではないかという結論に行きつきました。
防御反応を引き起こす原因は、遺伝的な因子やホルモン、毒性物質の影響などであり、人によって異なります。リコード法ではこの原因を①炎症性②萎縮性③毒物性④糖毒性⑤血管性⑥外傷性の6つに分類。食事や運動、睡眠やストレスケアなどといった生活習慣の改善が治療の中心となっています。
リコード法による一般的な認知症予防プログラム
リコード法による認知症予防プログラムは脳外科などで受けられます。病院によって多少の差はありますが、基本的には認知機能検査からはじまり、栄養解析、アルツハイマー病リスク遺伝子検査、自律神経バランス分析・抹消血液循環分析、体組成検査、うつ状態をチェックするSDSで、認知症の原因を探ります。
認知症予防プログラムのなかでも重要な要素のひとつが食事法。肉ではなく野菜を中心とし、ビタミンやポリフェノールを積極的に摂れるメニューの採用、脳の萎縮性が認められている場合はココナッツオイルを用いた療法。また、外傷性の場合はグルタチオン点滴などが用いられます。
リコード法は個々人の原因に対応したオーダーメイド型の指導となりますので、基本的には健康保険が適用されません。健康保険の適用対象となるのは最初にかかる検査費用のみです。
介護施設で取り入れられる食事・運動メニュー
リコード法は生活習慣の改善を目指す治療プログラムであることから、家族や介護者によるサポートが欠かせません。そのため、ここでは認知症が認められる要介護者に取りいれたい食事や運動についてご紹介します。
香菜や野菜を中心にしたケトフレックス12/3
認知症緩和には夕食を食べ終わってから、翌朝の食事まで少なくとも12時間は何も食べない時間を作り、寝る3時間前までに夕食を終える「ケトフレックス12/3」と呼ばれる食事法が有効とされています。
ケトフレックスのケトとは、脂肪を利用してエネルギー源であるケトン体を作ること。脳のエネルギー源となるケトン体を積極的に作り出すことで、エネルギー不足が解消され、認知機能の改善を期待できます。「フレックス」は緩やかな菜食主義を意味し、野菜が持つさまざまな栄養素を摂取することで、脳の老化を緩やかにできるかもしれないという考え方です。
この食事習慣を取り入れて、解毒作用や炎症対策に効果的と言われる香菜、ブロッコリー、キャベツ、カリフラワー、にんにく、しょうが、海藻、きのこ、オリーブオイル、さば、いわし、鮭、牧草牛、発酵食品などを積極的に摂取します。
反対に脳に炎症や萎縮をもたらすといわれる小麦製品や加工食品、乳製品の多用はおすすめできません。
運動時間は週150分以上が目安
週150分以上の運動メニューを、リコード法の一環として取り入れてみてください。要介護者の体調にもよりますので、まずは毎日短時間取り入れて、様子を見て増やしていきましょう。
リコード法を意識した食事と運動メニューで認知症の緩和を
リコード法はこれから検証が重ねられていくプログラムですが、脳機能の回復を示すデータも発表されはじめています。日本でも2018年に書籍が出版され、これからますます増えていく認知症患者への対策として、期待が持てそうです。
しかし、その一方で食事の管理や自費治療が求められるリコード法は、介護者、家族の負担も大きくなります。リコード法のメリット・デメリットを確認するためにも医療機関などでしっかりと説明を受け、ご家族が納得できるかたちで取り組むことをおすすめします。