「介護の三原則」とは?高齢者の尊厳を守るために欠かせない考え方

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笑顔のシニアと介護士
介護を行ううえでの基本理念に、「介護の三原則」というものがあります。1982年、デンマークにおいて当時「高齢者問題委員会」の委員長であったベント・ロル・アナセン氏によって提唱された考え方で、別名「アナセンの三原則」とも呼ばれます。
デンマーク国内だけでなく世界中の介護に取り入れられており、日本の介護においても重要な基礎となっているため、介護施設で働く介護職員や在宅で介護を行う人はもちろん、体の不自由な高齢者と接する機会のある方は知っておくとよいでしょう。
具体例を交えて分かりやすくご紹介しますので、「知らなかった」「聞いたことはあってもうろ覚えだった」という方は、ぜひチェックしてくださいね。

介護の三原則とは

楽しく歌うシニア
介護の三原則は、介護を行う人が基本とするべき以下の3つの考え方を指します。

  • 生活の継続性
    介護を必要とする人が、住み慣れた生活環境や生活リズムを突然変えることなく、できるだけそれまでの生活を継続していけるようにサポートすること。
  • 自己決定の尊重
    介護を必要とする人が、自分の暮らし方や生き方を自分で決められるように支援し、その決定を尊重すること。
  • 残存能力の活用
    何でも周囲が手伝ってしまうのではなく、今ある能力を最大限に使い、自分でできることは自分でやってもらうこと。

具体例で詳しく

介護士にスマホの使い方を教わるシニア

生活の継続性の例
たとえば、老人ホームの部屋にそれまで使っていた家具や食器などを持ち込み、住み慣れた自宅のような雰囲気にしたり、それまでの生活習慣(朝はゆっくりコーヒーを飲む、夕食後はテレビを見て過ごすなど)をそのまま続けてもらえるように配慮すること。

その他にも部屋が明るくないと眠れない方なら、ムリに暗くして寝ていただくのではなくセンサーで眠ったことを確認してから職員が照明を消しに行ったり、明け方から起床する方がいれば、ムリに寝かせるのではなく他の入居者を起こさないようにしながら活動していただくことなどが考えられます。

これらはほんの一例で、人には誰でも長く慣れ親しんできた生活習慣というものがあります。とくに高齢者にとっては、生活環境の変化は大きなストレスとなり、認知症など病気の悪化を招くことも。
施設の都合や在宅介護の都合で高齢者の生活を安易に変えるのではなく、できるだけ本人の生活が継続できるように知恵を絞っていくことが必要です。

自己決定の尊重の例

たとえば、朝ご飯のメニューに何を食べるか、おやつをまんじゅうにするかケーキにするか。そんな小さなことでも自己決定の一例です。小さくても自分で決めたことの積み重ねで、「自分の人生の主人公は自分だ」という実感を得ることができます。

逆に人に決めてもらうことが積み重なると、人生の満足度が大きく下がってしまうため、「どっちでもいい」「わからない」という人にも情報を提供したり提案したりして、自己決定をサポートしましょう。

「手を煩わせたくない」とガマンしてしまう高齢者もいますので、「○○でいいですよね」と決めつけたり、「早く決めてください」と急かすような対応はNG。そして「○○が食べたい」「○○したい」といった自己決定がされたなら、周囲はそれを叶えられるようできる限りサポートする必要があります。

ただ、明らかに不適切な決定の場合はどうすべきか判断に迷うこともあります。たとえば認知症の方が、真夏に「今日はこれを着る」と言って、厚手のセーターを出してきたらどうしたらよいでしょうか。

そんなときは「暑いからそんなのやめましょう」と取り上げるのではなく、一度それを着て汗をかいたタイミングで着替えを提案するなど、本人に納得感がもてる方法を考えてみましょう。

認知症高齢者の場合、どうせ分からないからと本人抜きで周囲が決めてしまいがち。しかし、認知症の人が何も分からないわけではなく、「ないがしろにされて辛い」「情けない」という感情はしっかり感じられています。できるだけ本人に分かりやすく情報を提供して意思や考えを引き出し、ケアに反映させていくことが必要です。

残存能力の活用の例

たとえば片麻痺の方であれば、麻痺のない方の手なら問題なく使えます。「危なっかしいから」「時間がかかるから」と、周囲がすべてやってしまうのではなく、持ちやすい食器を使ったり、着脱しやすい衣服を利用するなど環境側を工夫することで、自分でできることの幅が大きく広がります。

ほかにも、杖や手すりがあれば歩けるのであれば、どこに行くにも車いすを使ってしまうのではなく、時と場所によって自分で歩いていただくようにしたり、認知症でもできる家事を見つけて、それを担ってもらうといったことも該当します。

体に残された機能を活用することがよいリハビリになり、機能が回復したり維持できるメリットのほかに、「まだまだ自分にもできることがある」という自己肯定感から、生きる意欲を引き出すことにつながります。

逆に「至れり尽くせり」で何でも先回りしてやってしまうと、できていたことまでできなくなるなど、機能の低下を招くことがあるので注意が必要です。

介護の三原則が重要視される背景

テーブルが並ぶ介護施設内
今でこそ三原則の重要性が浸透している日本ですが、介護保険制度が始まった2000年頃までは、多くの特別養護老人ホームが、カーテンで仕切られただけの空間で画一的な集団ケアを行っていました。そこでは決められたスケジュールどおりの生活で、自由はないのが普通でした。

たしかに介護を提供するうえでの効率は良かったのですが、利用者にとっては尊厳やプライバシーが守られず、「これでは人間らしい生活とはいえない」と問題視されるようになりました。そこで三原則を念頭に置いた、高齢者の尊厳を守る介護が推進されるようになったのです。

日々待ったナシの介護現場では、ついつい介護する側の都合を優先してしまいがち。しかしスタッフの間に三原則が浸透していれば、「昔からの生活習慣なんだな、大切にしなくちゃ」「そうそう、自己決定を支援するんだった」「残った能力を使ってもらわなきゃ」と高齢者の立場に立って考えやすくなります。

誰もが人生の最期まで自分らしく生きる権利を奪われないために、介護に関わる人すべてに三原則が浸透していることが重要なのです。

三原則を心に刻んでおこう

レクを楽しむシニア達と介護職員

上記の三原則は、介護を行う人が忘れてはいけない介護の基本理念です。3つに共通して言えるのは、「介護する側の都合を押しつけるのではなく、介護される人の視点を大切にする」ということ。

介護する側の気持ちとしては、ついつい「危ないからやめましょう」「こうしたほうがいいですよ」と言ってしまいがちかもしれません。たしかにさまざまな理由から、利用者様の思いを叶えてあげられない場合も多いでしょう。

しかしそこでふと立ち止まり、「安易に断っていないか」「工夫次第でできないか」と考える姿勢が大切。たとえ100%は叶えてあげられなくても、知恵を絞ることで利用者様を尊重する気持ちが伝わるはずです。迷ったときはいつでも三原則を思い出せるように、心に刻んでおいてくださいね。

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