フィンランドの介護が抱える課題と変化。日本との違いは?

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笑顔で接する外国人介護士

フィンランドといえば、ムーミンやサウナが有名ですね。美しいオーロラや湖など、自然豊かな風景も、訪れた人の目を楽しませてくれます。さらにもうひとつ、「社会福祉が充実している北欧」というイメージも強いのではないでしょうか。

ところが高齢者介護事情に目を向けると、あまり楽観視はできません。まず、北欧諸国のなかで最も速いスピードで高齢化が進んでいること。さらにリーマンショックの影響から抜け出せず、若い世代を中心に失業率が高いままなど、財政的にも厳しい状況です。そんななか、いまフィンランドでは、施設介護から在宅介護への転換や、ダイナミックに進む民営化など、大きな変化が起こっています。今回は、その詳しい内容や、日本との違いについて解説します。

フィンランドの介護をとりまく状況は、日本と似ている点がたくさんあるので、きっと日本の問題を考えるうえでも参考になりますよ!

日本にはない「近親者介護サービス」

介護システムのイメージ

フィンランドの介護には、日本にはない「近親者介護サービス」という制度があります。これは高齢者の家族や友人など、近しい関係にある人が自宅介護サービスを提供したとき、その対価として手当金がもらえる制度です。もらえる金額は、日本円にして月額約4.5万円から、重度の人の場合は9万円くらい(2013年)。必要性が認められると、介護する人が自治体と契約を結ぶことができ、手当金のほか、休暇や社会保障があります。また介護者が介護手当をもらっていても、高齢者はショートステイなどの社会福祉サービスを利用することができます。

1995年以降フィンランドでは、この制度を利用している人がどんどん増えています。高齢者が在宅介護を希望した場合、家族や友人など身近な人にお世話してもらえるのは心強いと感じるでしょう。また、ケアを提供する方も、ボランティアではなくきちんと自治体と契約を結び、報酬や休日が保証されることは大きな安心材料になりますね。

介護者に報酬を支払うというのは、ある意味当たり前のことにも思えます。介護の担い手が減っている日本では、それを増やすという意味でも、参考にできる施策ではないでしょうか。

施設介護から在宅介護へ大きくシフト

リハビリ訓練中の外国人

フィンランドの高齢者は自立志向が強く、在宅介護を望む人が多数派です。また施設介護よりも在宅介護のほうがお金がかからないということもあり、国の政策として施設から在宅へと、いま大きくシフトしています。
なかでも、とくに老人ホームは縮小傾向で、利用者が急減中。1995年に、老人ホーム建設のための補助金が廃止されたことが大きく影響したということです。

かわりに伸びているのが、重度の人の在宅介護を可能にするホームケア。今までなら老人ホームに入居していたような介護度の高い人が、訪問看護や訪問介護サービスをひんぱんに利用しながら、在宅で生活するケースが増えています。

逆に自立に近い人で、配食や掃除などのサポートで済むような場合は、さきほど紹介した近親者介護サービスを利用するなどして、あまり訪問介護サービスを使わない流れになってきています。

民営化、とくに営利企業の参入が進行中

老人ホームが縮小している代わりにもう1つとても増えているのが、24時間体制のサービス付きの高齢者向け住宅。とくにフィンランドの都市部で、民営の高齢者向け住宅が急増しています。注目は、その運営をする企業。フィンランドではもともと、NPOなどの非営利組織が、高齢者福祉サービスの中心的な担い手でした。それが最近、高齢者向け住宅の分野を中心に、「営利企業」の割合が急激に伸びてきているのです。

理由はいくつか挙げられますが、まずは国庫支出金の使途に関する規制が緩和され、自治体が効率やコストを重視して委託先を選べるようになったこと。今まであった非営利団体への補助金など優遇されていた条件が変化し、自由競争が促されたことなどが主な要因です。

こうして参入してきたのが、フィンランド以外に基盤をもつグローバル企業です。いまフィンランドでは、規模の大きな営利企業による高齢者向け住宅が、とても増えているのです。

ターニングポイントに立つフィンランドの高齢者福祉

笑顔の外国人高齢者と介護士

急ピッチで進む高齢化や長引く不況など、日本と似た状況にも思えるフィンランドですが、ひとつ大きく違う点があります。それは、フィンランドの介護士は社会的地位が高いということ。収入も高く安定しており、人気の高い職業となっています。慢性的な介護の担い手不足に悩んでいる日本とは、そこが大きく違う点。日本では、まず介護職の待遇向上に全力をあげていくべきだと改めて思います。

とはいえフィンランドでは今、リーマンショック以降、不況が長く続いています。少子高齢化の進行や、じわじわと増える移民問題もあり、今までのような高齢者福祉を維持するのが難しくなってきています。コスト重視、営利企業の台頭という大きな変化が、フィンランドの介護事情をどう変えていくのか。これからも注目して見守り、そこから学んでいきたいと思います。

参考文献:「転機にたつフィンランド福祉国家 ―高齢者福祉の変化と地方財政調整制度の改革―」著者:横山純一

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