介護中に起こる事故で最も多いのが転倒・転落事故。過去の入所系サービスでの事例調査※でも圧倒的に多く、全体の77.9%を占めていました。
転倒事故への十分な対策は、介護現場における安全対策の柱となります。とはいえ完全にゼロにすることは不可能なので、事故時のダメージを最小限におさえる取組みや、適切な事故対処も現場の課題となっています。
今回は、転倒自体を予防する方法から、重大なケガに結びつけないための方策、事故時の適切な対応法について、ぜひ一緒に見ていきましょう。
※「介護サービスの利用に係る事故の防止に関する調査研究事業」報告書(公益財団法人 介護労働安定センター 平成30年)より
転倒事故の原因と防止策
転倒事故にはさまざまな原因があります。まずは原因ごとに分類し、防止策をみていきましょう。
1.職員側に原因がある場合
原因 | 対策 |
介助ミスがあった | 正しい介助方法についての研修を行う |
声のかけ方が不十分だった | 声かけのマニュアルをつくり、周知徹底する |
福祉機器の使い方を間違えた | 福祉機器の使用についての研修を行う |
職員の体調が万全ではなかった | 体調が悪いときに申告しやすい体制や、周囲のフォロー体制をつくる |
職員側に原因がある場合も、その人の個人的な問題にしてしまわないことが大切です。安易に原因を「不注意」「気のゆるみ」などとしてしまうと、「今後はよく注意する」「気を引き締めて業務にあたる」といった曖昧な対策しか出てこず、問題の解決につながりません。研修を定例化してスキルのベースアップを図る、身についたかどうかをチェックする体制を作るなど、具体的な対策で事故を防止していきましょう。
2.利用者様側に原因がある場合
原因 | 対策 |
薬の影響でふらつきがあった | 薬の種類や量について医師に相談する |
パジャマが滑りやすい素材だった | パジャマの素材を変えてもらう |
つっかけやスリッパなど転倒しやすい履き物を履いていた | 転倒予防シューズに変更してもらう |
杖など福祉用具に慣れていなかった | 新しい用具に変えたときは、慣れるまで付き添い歩行を行う |
利用者様側の原因にはさまざまな理由が考えられます。的確に原因を探っていくには、普段から利用者様の様子をよく観察することが欠かせません。服用している薬、過去の生活歴、最近変わったことなど、あらゆる方向から検討しましょう。
3.設備・環境に原因がある場合
原因 | 対策 |
車いすのブレーキが緩んでいた | 定期的に点検を行うルールをつくる |
近くにつかまれるものがなかった | 手すりを設置する |
足下が暗かった | センサーライトを設置する |
ベッド脇に置いていたゴミ箱につまづいた | ベッド周りにものを置かないことをルール化する |
小さな段差につまづいた | 段差解消スロープを設置する |
エレベーターの入り口に溝があった | 業者に頼み段差をスペーサー等でうめてもらう |
エレベーターが混雑していて手すりにぶつかった | 手すりに衝撃吸収素材を巻く |
家具の角にぶつかった | 衝撃を吸収するコーナーガードを取り付ける |
ミスは気合いや精神力だけでは防げません。センサーライトや段差解消スロープ、滑り止めマットや衝撃吸収素材などの便利グッズを活用してみましょう。「月に1回点検の日を作って点検する」といったルールを作ることも有効です。「いつ誰がやってもミスが起きない」ことをポイントに考えてみてください。
自発的な行動で起きる事故はダメージを最小限に
職員の目の届かない場所で、利用者様が自分の意思で動いて転倒事故になるケースも多いですね。しかしだからといって、ベッドの周りをすべて柵で囲ったりすれば、個人の尊厳を損なう身体拘束になってしまいます。
利用者様の自発的な行動で起きる事故は、自由を妨げない範囲での対策となるため、完全には防ぐことができないものと心得ておきましょう。
こうしたケースでは発想を変え、事故が起きてしまったときのダメージをいかに最小限にするかを考えます。たとえば下記のような方法が挙げられます。
- ベッドを低床にする
- ベッドの横に衝撃吸収マットを敷く
- 転倒してもケガをしないようプロテクターをつける
ベッドを低床にすることで、ベッドからずり落ちたり転落したときのダメージを減らすことができます。また衝撃吸収マットもケガを防ぐのに有効です。滑りにくく、つまづかないように加工されたものを選びましょう。
プロテクターは骨粗しょう症などで骨折リスクが高い人に有効性が確認されています※。排泄時や着替えのときに一手間かかりますが、面倒くさがらずに着用することで骨折を予防することができます。
※プロテクターによる高齢者の転倒傷害予防(総括研究報告書)(厚生労働科学研究成果データベース)
転倒事故での家族対応のポイント
日々ヒヤリハットを検討し対策を立てて実行していても、やはり転倒事故は起きてしまうもの。とくに骨折などの重大な事故の場合は、家族への説明で不備があると、施設への不信感につながり大きなトラブルに発展してしまいます。
《日頃からやっておくべき家族対応のポイント》
- 「防げない事故がある」ことをご家族に説明し、その対策として行っていること(低床ベッド、手すりの設置、衝撃吸収マット、見守り体制等)をお伝えしておく
- センサーコールが鳴っても別の人の介助をしている場合、すぐに駆けつけることができないこと、駆けつけたとしても事故を未然に防ぐことは難しいことをお伝えしておく。また転倒事故を発見したときの対応の流れについて説明しておく
《事故発生時の家族対応のポイント》
- 事故から1週間以内に、施設長が利用者宅を訪ねて説明する
- 事故前の利用者の様子や事故発生時の様子について複数のスタッフから聞き取り、詳細に説明する(目撃者がいない場合も、事故状況をできる限り努力して調べたことが伝わるように)
- 利用者のケガの状況、治癒の見込みについて説明する
- 事故の原因と、具体的な再発防止策について説明する
家族が求めているのは、プロとしての責任ある対応です。「○○さんのご家族とは信頼関係が築けているから」と慢心して調査や説明、対処を軽く扱ってしまうと、思いもよらぬ重大トラブルに発展することがあります。
手を尽くして調査を行い、誠実に説明し、具体的な対策を講じて再発防止に努めていることを伝えましょう。
転倒事故と上手につきあうために
利用者様の自由を大切にする以上、転倒事故をゼロにすることはできません。私達にできることは、転倒につながりそうな障害を取り除くこと、とっさのときにケガをしにくい環境をつくっておくことです。
介助者のミスや不注意で起きる転倒事故は、防止する仕組み作りで限りなくゼロへ。利用者様自身の自発的な行動で起きる転倒事故は、ダメージを可能な限り最小限に。この2つのアプローチで、利用者様の尊厳を守りながら、転倒事故でのケガを防いでいけるといいですね。