介護現場において、個々のニーズに寄り添った適切な介護の基盤となるのが、利用者との信頼関係です。コミュニケーションは信頼関係を築く手段ですが、その重要性を十分理解していても、実際には苦手意識を抱く方が多いのではないでしょうか。コミュニケーションで大切なのは、話すことよりも相手を尊重し、理解しようとする姿勢です。「介護職員は自分の気持ちや意見を受け止めてくれている」と利用者が感じられれば、信頼関係は自然と築かれていきます。
今回は介護現場で利用者と信頼関係を築くために役立つコミュニケーションのポイントとNGポイントをご紹介します。
信頼関係を築くためにコミュニケーションは必要不可欠
介護の現場ではコミュニケーションが重要視されますが、それはなぜでしょうか。それは人を相手とした仕事だからという理由に加え、介護が利用者と介護職員の信頼関係の上に成り立つものだからです。信頼できる介護職員相手でなければ、利用者は安心して体を預けたり気持ちを話したりはできません。また、必要な介護は利用者ごとに異なります。コミュニケーションによって相手を理解、共感し、信頼関係を深めることで、利用者個別のニーズを把握し、適切な介護を提供できるのです。
信頼関係を築くコミュニケーションのポイント
信頼関係を築くためには、利用者が安心して話せる雰囲気であることが大切。コミュニケーションのポイントを具体的にみてみましょう。
穏やかに話す
利用者が安心感を得られるような穏やかな口調で話しましょう。職員がイライラしていると、その感情は相手に伝わり不安や緊張、ストレスを感じさせてしまいます。例えば「食事はまだ?」という利用者の問いかけに「いつも言っていますが、食事は〇時からです!それまで我慢してください!」と職員がイライラした様子で返答すると、そのあと利用者は職員に安心して声をかけられなくなってしまいます。「食事は〇時からなので、もう少し待っていてくださいね」と穏やかに対応しましょう。
はっきりと話す
利用者の中には耳が遠くなっている方もいます。聞き取りやすいよう、わかりやすい言葉を使い、はっきりとした口調で話すようにしましょう。話している口元が見えるように利用者の目の前に立って顔を見て話したり、重要な言葉を強調したりすることも有効です。
相手のペースに合わせる
コミュニケーションはキャッチボールといいますが、そのペースは人によって違います。相手がゆっくりと話す場合は自分の話す速度を調節し、沈黙があっても返答を急かさず待つことが大切です。「ゆっくりで大丈夫ですよ」と声をかけるのもよいでしょう。
興味をもって聴く
相手を理解しようとする姿勢で、興味を持って話に耳を傾けます。利用者と意外な共通点がみつかって親近感をもてるかもしれません。例えば、過去に園芸が趣味だったと話す利用者がいれば「私はバラが好きなのですが、○○さんは何色のバラが好きですか?」「育てるのが大変な花は何ですか?」といったように、相手の反応が悪くなければ質問をして話を広げてみましょう。
共感する
利用者の言葉や感情をそのまま受け入れて寄り添い、相手を理解しようと努めましょう。利用者が身内に関する不安や悩み事など、返答に困るような内容を話した場合は、元気づけたり慰めたりする言葉を無理にかける必要はありません。「大変でしたね」「○○と感じたのですね」と共感を示す言葉をかけるようにしましょう。
非言語的コミュニケーションを活用する
コミュニケーションの手段は言葉だけに限りません。利用者が職員と顔を合わせたとき、明るい表情か無表情かでは職員に対する印象が大きく変わります。身ぶり手ぶりや表情、視線などもコミュニケーションの重要な要素であることを念頭に置いておきましましょう。職員がマスクを着用する介護現場では利用者に表情が伝わりにくいため、目元の表情や声色をとくに意識するとよいでしょう。
コミュニケーションのNGポイント
否定的な言動をする
利用者に対して「それは間違いだ」「できない」「無理」といった否定的な言葉の使用はNG。共感しがたい話を聞いたときも否定することは避けます。また、無視をする、要望に対して消極的な態度をとる、利用者の話を遮るなどの行為も避けましょう。
一方的に話す
コミュニケーションは一方通行で成り立つものではありません。相手が寡黙な利用者でも、その場を盛り上げようと職員が一方的に絶え間なく話し続けることは良いことではありません。利用者をよく観察し、どのようなコミュニケーション方法が適切か模索しましょう。
機械的に対応する
介助の際に、声かけや説明を省く、利用者に意識を向けない、無表情で接する、個別対応をせず一律に対応するなどの言動はNG。機械的な対応だと利用者が感じれば、信頼関係の構築が難しくなります。
プライバシーを侵害する
介護の現場では、個人情報だけでなく「利用者の尊厳」も保護しなければなりません。介護職員は業務上、利用者の生活に大きく関わるため、利用者に精神的苦痛を与えないよう配慮が必要です。とくに入浴や排せつ、着替えの介助では、体に触れる必要がある場合は利用者に確認をとること、他の人の目に触れないことを徹底しましょう。
敬意をはらって接することで信頼がうまれる
今回ご紹介したコミュニケーションのポイントはすぐに実践できるものばかりです。ぜひ、日頃のコミュニケーションに意識的に取り入れてみてください。コミュニケーションのテクニックを身につけることはもちろん大切ですが、利用者を尊重し、理解しようとする姿勢でいればコミュニケーションもおのずと丁寧なものになるはず。「相手に敬意をはらうこと」を心に留めておきましょう。