ケアマネジャー(介護支援専門員)は介護全般の知識に広く精通し、困っている高齢者や家族の相談役となってくれる心強い存在です。しかし周囲に何かと頼りにされるからこそ、仕事量やストレスも多く、あれこれ悩みが尽きないことも事実。
今回はそんなケアマネジャーの悩みに焦点を当て、具体的な悩みの内容や対処法を深掘りしていきます。他のケアマネジャーがどうしているのか知りたい現役ケアマネジャーはもちろん、これからケアマネジャーを目指す方、ケアマネジャーに興味のある方もぜひチェックしてみてくださいね。
ケアマネジャーの悩み
略してケアマネと呼ばれることも多いケアマネジャー。ケアマネに対してはいろいろな団体や地域でアンケートが行われています。まずはそれらをもとに、ケアマネがどんなことで悩んでいるのかや、負担に感じていることを具体的に見ていきましょう。
「利用者本人と家族との意見が異なる」
例えば、本人は強く在宅生活を望んでいるが家族は施設入居を望んでいるなど、本人と家族の意見が異なるケースで、ケアマネが板挟みになってしまうことが多くあります。ケアプランでは本人や家族の納得を得ることが必要ですので、それがスムーズに得られないとケアマネにとっては悩みのタネに。
「利用者や家族から過度のサービス提供を求められる」
たとえば料理の味付けを一人だけ変えるなどの特別待遇を要求する、正当な理由なく何度もヘルパーの交代を要求する、深夜や早朝に緊急ではない連絡を繰り返すなど。過度なサービスを求められても現場は対応できないため、現場との調整役を担うケアマネを悩ませています。
「ケアマネジャー業務以外の業務量が多く、業務範囲が不明確」
「ほかに頼れる人がいないから」「家族が遠くにいてすぐに行けないから」「ついでだから」といった理由で、本来の業務ではないことまで頼まれてしまい、疲弊しているケアマネは多くいます。
ケアマネジャー業務以外に行っていることで多いのは、救急車に一緒に乗るなど緊急入院した時の対応です。また診療に同行して診察結果を一緒に聞いたり、受診時の送迎や薬の受け取り等も。そのほか介護保険以外の各種申請、徘徊などで行方が分からなくなったときの捜索など多岐にわたります。
「夜間や休日の相談対応」「頻回な電話対応」
施設によって異なりますが、一般的にケアマネの勤務時間は通常8・9時~17・18時などで、間に1時間程度の休憩をはさみます。勤務時間以外はプライベートな時間のはずですが、トラブルは時間に関係なく発生するため、夜間や休日にも電話がかかってくることが。そのほか昼間であっても頻回な電話への対応は、ケアマネの時間と精神力を削ってきます。
「責任が重い」
在宅生活を支援する居宅ケアマネが担当するケースのなかには、介護が必要な状態なのに支援の手が届かず、ギリギリのところで命をつないでいる人もいます。自分の関わり方次第でその人の生活が変わると思うと、大きなプレッシャーを感じてしまうケアマネも。周囲に相談できる人がいない場合は、さらに心の負担が大きくなります。
「賃金・処遇が見合わない」
「仕事量の多さや責任の重さに賃金が見合っていない」ことも多くのケアマネが抱える不満のひとつ。とくに介護職員に対して処遇改善加算が出るようになってから、加算の対象外であるケアマネとの賃金差が縮小。なかには金額が逆転するケースもあり、ケアマネのモチベーション低下につながる問題となっています。
※参考資料
令和4年度ケアマネジャーアンケート調査結果(諏訪広域連合介護保険課)
豊田市高齢者等実態調査(令和4年度)第6章ケアマネジャーアンケート
お悩み別対処法
関係者の意見が相違するとき → 利用者の話を聞くことを優先
ケアマネ業務を進めるうえで、ケアマネ自身の意見も含めさまざまな人の意見が対立することは往々にしてあります。しかし常にケアマネが優先すべきは「利用者の意向」であり「利用者の人権」です。
「周りに迷惑をかけたくないから、本当の気持ちを言い出せない」という利用者様は多いもの。本人と家族の意見が食い違う場合は、「利用者の代弁者」というケアマネジャーの基本に立ち返ってみてください。
代弁者となるには気持ちを打ち明けてもらう必要があります。そのためにケアマネは自分の価値観や常識に縛られることなく、対等な立場で本人の考えや思いに耳を傾けることが欠かせません。
そのうえで「利用者様の願望を叶えることが、本人にとって逆に不利益になる」「一時的に意向に添えなくても、長い目で見ればそのほうが本人の利益になる」という明確な根拠があれば、それを分かってもらえるよう、ていねいに伝えていきましょう。
目標は、ケアマネの考えや家族の要望を本人に押しつけるのではなく、本人が自分のケアプランについて主体的に考えられるように支援していくこと。押しつけられたケアプランでは、結局は効果が上がらないことになりがちです。
業務以外のことまで頼まれ、断れない → 別の方法を提案する
ケアマネ業務以外のことも頼まれると断れず、残業が増えてしまうという悩み。頼まれても安易に対応してしまわず、まず別の方法を探して提案しましょう。自費サービスや有償ボランティア、自治体の独自サービス、家族や親戚にお願いするといった方法があります。
それらを吟味したうえで、ケアマネが行うしかないと判断した場合には「今回だけ特別ですよ」とことわって。2回目からはヘルパーを導入するなどして、緊急ではないことを何度もやらないようにしましょう。
何も言わずに引き受けると、「頼めばやってくれる」「やってくれるのが当たり前」と誤解されてしまう可能性が。「ケアマネは何でも屋ではない」ということをしっかり説明し、分かってもらうことが必要です。
電話連絡が多い → オンオフの線引き、緊急性の判断基準を明確に
休日や夜間も何かあればケアマネの携帯電話が鳴る、そんな状態では体も心も休まらなくて当然です。あらかじめ、休日や時間外は事務所に連絡してもらったり、緊急時以外はメールで連絡してもらうなど、連絡体制を利用者様やご家族、介護サービス事業所に周知しておきましょう。
どういったケースが緊急でどういったケースは緊急でないのか、判断基準を擦り合わせしておくことも大切です。また「こんなケースはかかりつけ医に」「こんなケースはかかりつけ薬局に」など、適切な連絡先を伝えておき、ケアマネに連絡事が集中しないようにするのも有効です。
ケアマネの体はひとつですから、すべての要望に応えることはできません。できることとできないことの間に明確に線を引き、線の外側の業務は手放すことも必要です。
賃金など待遇に不満 → 自分に合った方法を選択
ケアマネジャーが給与額を上げる方法は2つ考えられます。ひとつが「主任ケアマネジャー」へのステップアップ。通算5年以上のケアマネジャー実務経験があれば、「主任介護支援専門員研修」を修了することで資格を取得することができます。
主任ケアマネになると管理職に就くことで給与が上がったり、転職で有利になったり、独立して自分の事業所を持つ道も開けます。リーダー職、管理職、独立に興味のある方にはおすすめの方法です。
また現在居宅ケアマネとして働いている場合、施設ケアマネに転向する選択肢も考えられます。施設ケアマネではケアマネジャー業務のほかに、介護職員として介護業務も兼任することが多いので、介護職員処遇改善加算や夜勤手当などにより、給与額をアップさせることが可能です。
こちらは身体介護の仕事が好きな方や、夜勤も可能な方におすすめの方法。どちらにしても給与の額だけでなく、自分のライフスタイルややりたいことと合致しているかを吟味することが大切です。
大切なことを見極め線引きを
さまざまな価値観を持つ人と人の間に入り、調整していくケアマネの仕事は、大きなやりがいが得られる反面、葛藤やジレンマも多く悩みが尽きません。
親切心や責任感から仕事を引き受けすぎたり、時間外まで対応したりしていては、心身の健康を損なってしまうことも。自分にとって大切なことを見極めブレずに守っていくこと、そしてここから先は人に任せる、という線引きを明確にすることを試してみてください。
悩みを乗り越えた先には、また大きな成長とやりがいが待っているはず。ここに挙げた方法が少しでも、乗り越える際のヒントになれば幸いです。